イタリア車オーナー Sさんの情熱──3台のアルファロメオとランチャに注ぐ愛情

アルファロメオ

アルファロメオ166、916スパイダー、そしてランチャ・モンテカルロ。
ガレージのシャッターを開けると、時代もキャラクターも異なる3台のイタリア車が並ぶ。
その光景はまるで、人生のストーリーを映し出すアートのようだ。

アルファロメオ164から始まり、20年以上にわたりイタリア車と向き合ってきたSさん。
彼のクルマへの接し方は、“所有する”というより“共に生きる”に近い。
今回は、Sさんにとってのイタリア車、そして“愛情を注ぐということ”について話を聞いた。

目次

3台のイタリア車とともに過ごす日々

Sさんが現在所有するのは、アルファロメオ166、916スパイダー、ランチャ・モンテカルロの3台。
それぞれが異なる個性を持ちながら、共通しているのは“人の手を感じる美しさ”だという。

どのクルマにも“作り手のこだわり”がある。
少し不器用でも、その中には確かな温度と意志が感じられる。
そういうクルマは、手をかけるほど応えてくれる。

クルマを手に入れてからの流れはいつも同じ。
まず全体を見直し、外装・内装・機関すべてを最善の状態に仕上げる。
それは“修理”ではなく、“再生”という言葉が似合う。

まず全体を見直し、外装・内装・機関すべてを最善の状態に仕上げる。
それは“修理”ではなく、“再生”という言葉が似合う。

Sさんが所有する3台には、それぞれ異なる時代の魅力がある。

  • アルファロメオ166(1999–2007)
    デザインはワルター・デ・シルヴァ。繊細なラインと均整の取れたプロポーションが特徴で、
    3.0リッターV6“ブッソエンジン”が奏でるサウンドは今もファンが多い。
    164の後継であり、アルファロメオのフラッグシップモデル。
  • アルファロメオ916スパイダー(1995–2005)
    ピニンファリーナが手掛けた流麗なボディラインが印象的。
    2.0TSやV6を搭載し、デザイン・サウンド・ハンドリングすべてに“情熱”が息づく。
    Sさんのは、V6 3.0モデル 。V6 でも12バルブで、24バルブが主流の中で希少な存在。
  • ランチャ・モンテカルロ(1975–1984)
    ピニンファリーナによるデザイン。
    軽量ボディとミッドシップレイアウトが生み出す操縦感は唯一無二。
    古典的な構造ながら、今なお走りの“原点”を感じさせる。

線の取り方や素材の使い方、細部の仕上げに至るまで、
当時のデザイナーやエンジニアのこだわりが息づいている。
工業製品でありながら、どのモデルにも“人の仕事の跡”が残り、
手をかけ、磨き、また走らせるたびに、その魅力が深まっていく。

アップデートは、愛情の証

25年落ちとは思えないコンディション

Sさんのポリシーは一貫している。
「クルマは手に入れて終わりじゃない。そこからが始まりです。」

アルファロメオ166も例外ではない。
特に内装のリフレッシュに力を入れ、当時のオリジナルシートの質感を損なうことなく、限りなく初期状態に近づけた。
白いシートは見事に上品さを取り戻し、まるで新車のような佇まい。
ドライビングシートに身を預けると、とても25年前のセダンとは思えない完成度だ。

「古いクルマを“維持する”というより、“育てる”感覚に近いです。
完璧を目指すわけじゃなく、少しずつ理想に近づけていく過程が楽しい。」

ナビもクルーズコントロールもない。
4ドアセダンでありながら、MTという異端なまるでスポーツカーのような仕様。
けれど走らせるたびに、心の奥で何かが満たされていく。

166だけでなく、916スパイダーやランチャ・モンテカルロも、どれも見事なコンディションを保っている。
いずれの車にも細部まで手を入れ、アップデートに一切の妥協がない。
その姿勢こそが、Sさんのクルマとの付き合い方の根底にある哲学だ。

試乗で感じた「進化し続ける完成形」

実際にSさんのアルファロメオ166に試乗させてもらった。
エンジンをかけた瞬間、ブッソV6特有の柔らかく重厚な鼓動が車内に響く。
アクセルを踏み込むと、3.0リッターNAらしい伸びやかな加速が全身を包み込む。

オーバーホールされた足回りは、しなやかでいて芯があり、
路面の情報を正確に伝えながらも乗り心地は驚くほど上質だ。
電子制御や快適装備が一切ないのに、
“人と機械が直接つながっている”感覚が心地よく、どこまでも走りたくなる。

そして3000回転を超えると、サウンドが一段と生き生きと変化する。
スポーツマフラーから響くブッソV6の咆哮は、心の奥を揺さぶるような官能的な響きだ。
気持ちが高鳴り、これがセダンであることを一瞬忘れてしまう。
166の走りには、セダンでありながらアルファロメオらしい芯のあるスポーティさが息づいている。

「これでいいじゃなくて、これがいい。」
Sさんが笑顔でそう言った瞬間、このクルマのすべてが理解できた気がした。
快適さを削ぎ落とした結果、運転そのものが“贅沢”になる──。
それこそが、Sさん流のアップデートの到達点だった。

手間をかけることが、幸せになること

「イタリア車は、手がかかるからこそ魅力的なんです。」
Sさんは笑いながらそう言う。

小さなトラブルがあっても、怒ることはない。
むしろ、その“気まぐれ”を受け入れるように向き合う。
パーツを探し、専門店と相談し整備する。
その一つひとつの行為が、“愛情を注ぐ時間”として積み重なっていく。

「人間関係と同じで、完璧なクルマなんてない。
でも、手をかけたぶんだけ絆が深まる。
それが楽しいんです。」

ガレージは“もうひとつのリビング”

Sさんのガレージには、整然と並ぶ工具と、
仲間が集まるための小さなテーブルセットがある。
休日にはコーヒーを片手に仲間と語り合い、
車を眺め、エンジン音を聴きながら時間を過ごす。

そこは単なる作業場ではなく、“人生を楽しむための空間”。
クルマを中心に人がつながり、笑顔が生まれる。
イタリア車がSさんにもたらしたのは、機械以上の“豊かさ”だった。

そして、Sさんの本業は建築家である。
このガレージも、自らの手で廃材を再利用し、
素材の表情や時間の経過を生かしながらデザインされた“もうひとつのリビング”だ。
鉄と木、そしてクルマのメカニカルな質感が見事に調和し、
温かみと機能美が同居する空間に仕上がっている。

「手をかけた分だけ、空間にも愛着が生まれる。
クルマも建築も同じですね。」

そして、私自身もまた、イタリア車を通じてSさんと出会うことができた。
情熱を注ぎ続けるその姿勢に触れ、
“クルマを愛する”という言葉の意味を改めて実感した。
この出会いそのものが、イタリア車がくれた最高の贈り物だと感じている。

自分が満足できるか──それがすべて

話の終盤、印象的な言葉があった。

「他人にどう見られるかよりも、自分が満足できるかが大事。
それができれば、クルマも人生も楽しくなる。」

この言葉に、イタリア車の本質が凝縮されている気がした。
合理性や効率では測れない、“好き”という気持ちの純度。
そしてそれを貫く強さ。

Sさんにとってアップデートとは、
「自分の感性を確かめる時間」であり、
166もその思いを形にする“相棒”なのだ。

そして、その話を聞いたあと、私自身も強く共感した。
誰かに認められるためではなく、
自分が納得できるものをつくることこそ、最高の贅沢だと。
Sさんの姿勢は、クルマに限らず、
ものづくりや人生そのものに通じる“真の美学”を教えてくれた。

まとめ ── 愛情を注ぐことの豊かさ

Sさんの3台のイタリア車。
どれも古く、手がかかる。けれど、その存在は唯一無二。
手をかけ、時間をかけ、心をかけるほど、
クルマはSさんの人生の一部になっていく。

「完成させないから、楽しみが続く」
そんな言葉が自然と出てくる彼の姿は、
まさに“情熱で生きるイタリア車オーナー”の理想像だった。

関連記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

イタリア車と暮らし、イタリアの“美しい生き方”を伝える
アルファロメオやフィアットなど、イタリア車に15年以上乗り続け、デザインと走りに魅了されてきました。
内装や電装品のDIY整備も行う実践派で、日常の中で“イタリア流の情熱”を体感しています。

イタリア・フィレンツェで3年間学んだ芸術と食文化の経験をもとに、
情報サイト「SOLENTIA」で“本場の美学とリアルなイタリア”を発信しています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
SOLENTIAとは

SOLENTIA(ソレンティア)は、イタリア語の「Sole(太陽)」と「Essentia(本質)」を組み合わせた造語。
“太陽の本質”“光のエッセンス”を意味し、イタリアの情熱と温かさ、生きる歓びを象徴しています。

イタリア車に乗り、料理を味わい、旅を楽しむ——
そんな“日本にいながらイタリアを生きる”ライフスタイルをテーマに、
SOLENTIAはクルマ・美食・旅を通して日常に「イタリアの光」を届けるメディアです。

目次