イタリアでは「食べること」が、ただの行為ではなく“人生の中心”にある。
料理を味わうというより、“人を尊重する時間”なのだ。
だからこそ、イタリアの食卓には独自のルールと美学が息づいている。
少し肩の力を抜いた優雅さ、そして「食を大切にする心」。
それを理解すれば、旅先での食事がぐっと豊かになる。
イタリアの食事マナーの基本|日本とはここが違う
イタリアでは、食事は“人との時間”。
「早く食べる」「黙々と食べる」という行為は、あまり歓迎されない。
対して日本では、静かにいただくことが美徳とされる。
つまり、日本が“静寂の礼儀”なら、イタリアは“会話の礼儀”だ。
食事中は会話が花を咲かせる。
仕事の話ではなく、家族、料理、ワイン、そして冗談。
笑い声がテーブルに響くのは、イタリアではむしろ“良い時間の証拠”だ。
食事中にスマホを触るのはもちろんNG。
イタリア人にとって、それは“目の前の人を軽んじている”というサインに見えてしまう。
食卓では、「人を見て、話して、食べる」──それがマナーなのだ。
🍽️ 食事中にしてはいけないこと
イタリアでは、以下の行為は控えるのがスマート。
一つひとつには、国民性と美意識が隠れている。
❌ 食べながら歩く
ピザやパニーニを片手に歩くのは観光客だけ。
地元の人にとって“食べ歩き”はマナー違反。
食べ物は「味わうもの」であり、「ながら行動」で消費するものではない。
❌ ナイフとフォークをカチャカチャ鳴らす
音を立てるのは下品とされる。
ワインを注ぐときも静かに、グラスを当てるときも控えめに。
“静かな品”が、イタリア流のエレガンスだ。
❌ パスタを切る・すすり上げる
長いパスタ(スパゲッティなど)をナイフで切るのはNG。
そして、日本人にとって最も意外なのが──すすらないこと。
蕎麦やラーメンのように「ズズッ」と音を立てるのは、イタリアでは完全なマナー違反。
音を立てる行為は、食べ方が汚く見えるだけでなく、
「料理を尊重していない」と受け取られることもある。
正しいのは、フォークで少しずつ巻き取って、静かに口へ運ぶ食べ方。
スプーンを使う人もいるが、正式にはフォーク一本で巻くのがよりスマートだ。
この“音のない所作”が、イタリア人にとってのエレガンス。
❌ チーズをかけすぎる
日本では「チーズ多めで!」が人気だが、
イタリアでは料理ごとに“チーズをかけるか否か”が決まっている。
特に魚介パスタにチーズをかけるのはタブー。
味の調和を壊す行為と見なされてしまう。
❌ 食後にカプチーノを頼む
カプチーノは“朝の飲み物”。
食後に飲むならエスプレッソが正解。
胃に負担をかけないように、という文化的背景がある。
定員(店員)の呼び方とスマートな声かけ方

イタリアのレストランでは、「店員を手で呼ぶ」「大声で呼ぶ」のはマナー違反。
イタリア人は、“人として対等に接すること”をとても大切にする。
サービスする側・される側というより、“同じテーブルを共有する仲間”という感覚に近い。
正しい呼び方・声のかけ方
まず、無言で手を上げて「すみません!」と呼ぶのはNG。
日本では普通の行為でも、イタリアでは失礼に見える。
代わりに、目を合わせて軽く手を挙げ、
柔らかいトーンでこう言えば十分スマートだ。
- 「Scusi(スクーズィ)」=すみません(丁寧)
- 「Mi scusi, per favore(ミ スクーズィ ペル ファヴォーレ)」=すみません、お願いします
- 「Per favore(ペル ファヴォーレ)」=お願いします
レストランの雰囲気によっては、フレンドリーにこう言うこともある
- 「Cameriere!(カメリエーレ)」=ウェイターさん!
- 「Cameriera!(カメリエーラ)」=ウェイトレスさん!
ただし、これを大声で言うのは避けること。
声は小さく、笑顔で。
目が合えば、店員はすぐに察して来てくれる。
イタリア人は「空気を読む」よりも、「目で伝える」文化なのだ。
🍷 呼ぶタイミングにもマナーがある
イタリアの食事は日本よりゆったり進む。
食事中に何度も呼び止めるのは無粋とされる。
たとえば:
- オーダーは一度にまとめて。
- 食後は「お皿を下げてください」など言わず、自然に任せる。
- 会計も「お金を払います」ではなく、
「Il conto, per favore(イル コント ペル ファヴォーレ)」=お会計をお願いします。
イタリアでは“急がせないことが礼儀”。
焦らず、ワインを片手に会話を楽しみながら待つ。
それが最高のマナーだ。
😊 呼び方ひとつに“人間関係”が見える
イタリアでは、店員もお客も対等。
「サービスされる」ではなく「一緒に時間を楽しむ」という意識がある。
だから、「ありがとう」=「Grazie(グラーツィエ)」を忘れないこと。
この一言だけで、サービスの温度がまるで変わる。
🍕 ピザにもマナーがある
ピザはイタリアの象徴的料理。
でも、その食べ方ひとつにも“粋”がある。
ピザはフォークとナイフで
ナポリやローマのレストランでは、ピザは基本的にナイフとフォークで食べる。
手でつまむのはテイクアウトやカジュアルなバールだけ。
丸ごとのピザを切り分けながら、ゆっくり味わうのが正統派スタイル。
ピザにトッピングを足しすぎない
イタリアでは、ピザのレシピは完成された芸術。
「ハムも追加、マヨネーズも!」という日本的アレンジはご法度。
ナポリでは「ピッツァ・マルゲリータ」が究極の一枚とされ、
その美しさは“シンプル・イズ・パーフェクト”を体現している。
ピザをシェアしすぎない
ピザを分け合うのはOKだが、一人一枚が基本。
ピザは“個人の一皿”として提供される。
取り分け皿を回すより、それぞれが自分の一枚をじっくり楽しむのが流儀だ。
真のナポリピッツァとは?|イタリアの伝統と日本で味わえる“本物のピッツァ”を徹底解説
イタリア人が大切にする“テーブルの美学”
イタリアでは、「食べ方」よりも「食べる姿勢」が見られている。
背筋を伸ばして、ナプキンを膝に。
パンはフォークで刺さず、手でちぎる。
食べ残しは極力せず、“Grazie(ありがとう)”と笑顔で伝える。
イタリア人は、食卓を「小さな舞台」として考えている。
そこでは、マナーとは“他人への敬意を見せる所作”なのだ。
どれほど高級な料理よりも、
一緒に食べる人への態度が、その人の品格を決める。
日本との違いを感じる瞬間
日本では「静かに食べる」「きれいに残さず食べる」がマナーの基本。
一方、イタリアでは「楽しく食べる」「時間を共有する」が最も大切。
日本の“礼儀”と、イタリアの“情熱”──
どちらも正しいが、文化の根が違う。
イタリアでは、沈黙は“つまらない時間”。
日本では、沈黙は“思いやり”。
その違いを理解すれば、食事の場で自然と振る舞える。
☕ 食事の締めくくりは“余韻”
デザートを食べ終えたら、
イタリア人は静かにエスプレッソを飲み、会話を続ける。
誰も「急がなきゃ」とは言わない。
食事は胃を満たす時間ではなく、“心を満たす儀式”だから。
“ごちそうさま”のかわりに、
「È stato delizioso(とても美味しかった)」と伝えよう。
そのひと言で、あなたはもうイタリア人の仲間入りだ。
「È stato delizioso」= とても丁寧で自然な表現
意味:「とても美味しかったです」「素晴らしいお料理でした」
- 文法的には「essere(〜である)」の過去形+形容詞 delizioso(おいしい/上品な)。
- “体験”として美味しかった というニュアンスで、食事全体に感謝を伝えるときに使います。
- ウェイターやシェフに言うと、とても上品で好印象。
トーンは日本語でいう「とても美味しゅうございました」に近いです。
「Era buono / Era buona」= カジュアルで家庭的
意味:「美味しかったよ」「うまかった!」
- 「era」は「è(〜です)」の過去形(不完全過去)。
- “味として良かった” という意味で、友人や家族に対して自然な会話。
- 名詞の性に合わせて語尾が変わります。
- Il piatto era buono.(その料理は美味しかった)
- La pasta era buona.(そのパスタは美味しかった)
→ カジュアルな雰囲気・家庭・友人同士などでよく使われます。
店員に対して使うと、少しフレンドリーで親しみのある印象。
👇使い分けのコツ
- レストランで:
→ 「È stato delizioso, grazie!」
(とても美味しかったです、ありがとう) - 家や友人との会話で:
→ 「Era buonissima la pasta!」
(このパスタめちゃ美味しかったね!) - カジュアルに一言だけ:
→ 「Buonissimo!」で十分。笑顔があれば完璧です。
イタリア語は難しい?でも学ぶ価値あり!ローマ字なのに奥深い魅力と学習のコツ
✨ まとめ:マナーとは「美味しさの一部」
イタリアの食事マナーは、ルールではなく“美意識”。
大事なのは、食べ方の正しさよりも、食べる姿勢の優雅さと、相手への敬意。
ナイフの角度よりも、笑顔の角度の方が大切なのだ。
「食べることは愛すること」──
イタリア人がそう語るのは、きっと真実だ。
その言葉の意味を、テーブルの上で感じてほしい。
関連記事
