「ナポリピッツァって、意外と大きいんですね!」
初めて本場のピッツェリアを訪れた人が必ず口にする言葉だ。
日本では家族や友人とシェアする“宅配ピザ”のイメージが強いが、
ナポリではピッツァはひとりで食べきる一皿。
1枚の直径はおよそ30〜35センチ。
それでも軽く、最後まで飽きずに食べられるのは、
職人が小麦・水・塩だけで作る生地を時間と情熱で発酵させているからだ。
ナポリピッツァのサイズには理由がある。
それは「みんなで分け合う」よりも、「人生を丸ごと味わう」ための形。
この記事では、真のナポリピッツァのサイズ・食べ方・その哲学を、
現地の流儀とともに詳しく紹介していこう。――ナポリに行かずして、ナポリの情熱を食す。
ナポリピッツァとは? ――粉・水・炎が生む、イタリアの魂
「ナポリピッツァ」という言葉を聞くだけで、鼻の奥に小麦の香りと焦げた薪の匂いが広がる。
それは単なる“ピザ”ではなく、ナポリという街が育んだひとつの文化だ。
生地は手でこね、72時間以上かけて発酵させ、手のひらで優しく伸ばす。
厚すぎず、薄すぎず、縁(コルニチョーネ)はふっくらと空気を含み、中央は驚くほど柔らかい。
400〜500度の薪窯で一気に焼き上げるその時間、わずか90秒。
それだけで、小麦と酵母の香りが爆発する。
「ナポリピッツァとは?」――この問いに答えるなら、
それは時間と手仕事と情熱が焼き上げた“食べられる芸術”と言えるだろう。
ナポリピッツァのサイズとは?
🔸 基本サイズ:直径 約30〜35cm(1人前)
真のナポリピッツァ協会(Associazione Verace Pizza Napoletana:AVPN)の定義では、
ピッツァ・ナポレターナは直径約30〜35cmが標準。
つまり、日本の宅配ピザでいう「Mサイズ(25cm)」よりひと回り大きく、Lサイズ未満の大きさです。
ただし、1枚=1人前が原則。
「みんなでシェア」はナポリでは少し野暮に見られます。
🍴 ナポリでは“1人1枚が常識”。
生地が軽く、中心が薄いため、女性でもペロリと食べられます。
🔸 厚みの特徴
- 中央(具の部分):3〜4mmほどの極薄生地
- 外側(コルニチョーネ):約2〜3cmのふっくら膨らんだ縁
薪窯の高温で一気に焼くことで、縁の空気が弾けるように膨らみ、
中心はとろけるように柔らかく仕上がります。
この“薄い中心 × ふっくら縁”のコントラストこそが、ナポリピッツァの醍醐味です。
🔸 重さの目安
生地の量はおよそ 200〜250g。
これもAVPNの公式基準に基づいたものです。
小麦粉と水、塩、酵母だけで構成されるため、
焼き上がるとふんわり軽く、見た目よりずっと食べやすいのが特徴。
ナポリピッツァと他のピッツァは何が違うの?
ローマ風ピッツァは薄くてパリパリ、アメリカンピザはチーズが洪水のようにとろける。
一方、ナポリピッツァは“もちふわ”の食感が命だ。
生地には卵や油は使わず、水・塩・酵母・小麦粉だけ。
シンプルだからこそ、職人の技と温度管理がすべてを左右する。
そしてもう一つ、決定的に違うのが焼き方のスピード感。
石窯の内部はまるで太陽のように輝き、ピッツァ職人は数秒ごとに向きを変えながら、
一瞬の“焼きムラ”すら逃さない。
焦げ目ができるギリギリのラインで取り出した瞬間――
縁は軽く、中心はとろけるような柔らかさになる。
それがナポリピッツァ、イタリア人が“生地の呼吸”と呼ぶ技だ。
イタリア人のピッツァの食べ方 ――手では食べない、分けない。
ナポリでピッツァを頼むと、皿に乗って出てくるのは一人前、1枚だけ。
そして驚くことに、イタリア人はそれをナイフとフォークで食べる。
手づかみでシェアして食べるのは、アメリカや日本の習慣。
イタリアでは「ピッツァは一人の時間と会話を楽しむための料理」であり、
1枚をゆっくり味わうことこそが礼儀だ。
しかも、彼らは食べながらも陽気に話し、時に歌う。
ピッツァは単なる食べ物ではなく、人生を楽しむリズムのひとつなのだ。
日本でもナポリピッツァが食べられる?
「本場の味はナポリに行かないと無理」――そう思っていた時代は終わった。
いまや日本は、ナポリピッツァ職人の“もう一つの聖地”と呼ばれている。
全国には真のナポリピッツァ協会(Associazione Verace Pizza Napoletana)に
正式認定された店舗が数多く存在する。
その数はイタリア国外でもトップクラス。
つまり、ナポリピッツァの本物を味わいたければ、
わざわざ飛行機に乗らなくても、日本で十分に叶うのだ。
ナポリピッツァの大会 ――そして日本人が世界で戦う
毎年イタリア・ナポリで開催される「Pizzaiuolo World Championship(ピッツァ職人世界大会)」。
この大会には、世界中から職人が集まり、焼きの技・生地の伸ばし・トッピングの精度を競う。
驚くべきことに、ここ数年、日本人職人が常に上位入賞している。
温度・湿度・粉の違いを克服し、日本の環境でナポリの味を再現しているのだ。
彼らの努力が認められ、日本は“ナポリの次にピッツァがうまい国”と呼ばれるようになった。
真のナポリピッツァ協会とは?
1984年にナポリで設立されたこの協会は、
ナポリピッツァの伝統と職人技を守るために誕生した。
「真のナポリピッツァ」と認められるには、
原材料、手順、焼成法に至るまで、厳格な基準を満たす必要がある。
たとえば
- 生地は手で伸ばす(機械禁止)
- 薪窯で焼く(電気オーブン禁止)
- 焼き時間は90秒以内
- トマトはサンマルツァーノ、チーズはモッツァレッラ・ディ・ブーファラ
これらを守り、審査を経て初めて「真のナポリピッツァ協会認定店」となる。
日本では1996年に「真のナポリピッツァ協会日本支部(AVPN Japan)」が設立され、
現在では全国に100店舗以上の認定店が存在する。
店の入口に円形の赤いロゴマークが掲げられていれば、それが証。
そのロゴを見つけた瞬間、あなたの前にあるのは“ナポリそのもの”だ。
杉並・永福の「ラ・ピッコラ・ターヴォラ」で体験した“真”の味
東京都杉並区・永福町。
住宅街を抜けた先に、まるでナポリの下町に迷い込んだような香ばしい匂いが漂う。
それが「ラ・ピッコラ・ターヴォラ(La Piccola Tavola)」だ。
ここは日本でも数少ない真のナポリピッツァ協会認定店。
扉を開けると、薪窯の前でイタリア人シェフが軽やかに生地をこねている。
そしてリズムよく焼く姿は、まるで舞台のパフォーマンスのようだ。
マルゲリータを頼むと、数分後には湯気とともにテーブルへ。
縁はふっくら、中央はしっとり。
トマトの酸味とモッツァレッラのミルクの香りが溶け合う。
一口食べた瞬間、思わず息をのんだ。
――ナポリの太陽が舌の上で踊っていた。
日本に広がる“真のナポリ”の輪
いま、日本各地にナポリの風が吹いている。
東京・大阪・福岡・札幌……
どの街でも、赤い「真のナポリピッツァ協会」マークを掲げた店を見つけることができる。
それは単なる認定ロゴではなく、
“イタリアの心”を正しく継ぐ証。
職人たちは毎朝、粉に触れ、発酵の状態を確かめながら、
今日も90秒の魔法を焼き続けている。
真のナポリピッツァ公式サイト
👉 Associazione Verace Pizza Napoletana(真のナポリピッツァ協会)公式サイト
ここには認定店一覧や大会情報、職人インタビューなどが掲載されている。
“真のナポリ”を名乗ることの重みと誇りを知るには、一見の価値がある。
終章:ナポリの魂は、薪の炎とともに
ピッツァは、食べ物でありながら、人生の縮図でもある。
素材を選び、手で練り、待ち、焼き上げる。
そのすべての過程が、ナポリ人の“生きる哲学”を象徴している。
イタリア語で「熱」を意味する“Calore”は、
単に温度ではなく、人の情熱をも意味する。
ナポリピッツァは、そのCaloreを最も美しく表現する料理だ。
そして、私たちが日本でそれを味わえるというのは、
職人たちが国境を超えて伝えてくれた“食の詩”の恩恵にほかならない。
ナポリの太陽は、今日も日本の薪窯の中で燃えている。
